普通、何かの心配事がある人は

 普通、何かの心配事がある人は、誰かに相談する。すると俺の事を紹介する人がいる。それで始めて俺のところに尋ねてくる訳だ。だから、まずは俺の事を紹介してくれる人からの電話だ。漫画を手にしたままジーっと電話を睨む。もっともいくら念力を送った所で電話が鳴る訳はない。十五秒ほどで諦め漫画を開いた。

 何回読んでも、おもしろい物はおもしろい。誰でも漫画を読んでいると無意識のうちに笑っている事がある。俺もそうだ。自分の口から『ふふっ』と小さな笑い声が時折聞こえる。そして小さな事件が起こったのは、俺がその漫画を読み終えた時だった。俺の事務所の前に誰かの気配を感じた。そしてその気配は現実の物になった。

「すいませーん……大友さーん。大友、清さーん」誰が、どう聞いても、俺の事務所のドアに向かって呼び掛けている。その声から推理すると、三十台後半の女性だろう。その声の前に、ズッ、ズッ、という感じの足音がしていた。と言う事は大柄な人物でそれも太っている、ならば集金人の可能性が高い。いや集金人という理由は無いが、それが一番思い当たる人物だ。

「ねぇ、ちょっとー。大友さーん。いるんでしょ」俺の知り合いにこの声の持ち主はいない、間違いなく集金人だ。今日は駄目だ。明日でも駄目だ。いつまでたっても駄目だ。金が無い。いつ用意できるか分からない。俺は貧乏なんだ。一瞬『居留守』という単語が頭をかすめる。静かに漫画を机の上に戻した…いや、ちょっと待てよに続く。