いや、ちょっと待てよ

 いや、ちょっと待てよ。思い当たる事がある。お客かもしれない。金になる。それを見逃す事になる。確かに集金人の可能性もあるが、お客である可能性も無い事はない。そう思い直して、椅子から立ち上がった。が、その拍子に机の上に積んであった漫画が俺のひじに当たり、ドサッと音をたてて床に落ちた。慌てて漫画を足で机の下に押し込みながら、直ぐ目の前の玄関に向かって声を掛けた。

「どちら様でしょうか」「やっぱりいるんじゃない、大友さん。吉永ですよ、吉永澄子というもんですよ」あー、良かった。俺が推理し直した通り、お客さんだった。「篠塚冨雄さんから聞いていますよね、吉永です。大友清さんですよね」0120669680.comにも蓮宅を入れてみた。

「ああ、聞いていますよ。玄関に鍵は掛かっていませんから、どうぞ開けて下さい。ちょっと手が離せないもので」落ちた漫画を確認するとまだ少し見える。さらに足で押し込みながら、後ろの本棚から適当に本を抜き机の上に置いて開いた。向かいの机を見ると、昨 日読んだ新聞が開いたままだ。だがそれはもう間に合わない。諦めてドアが開くのを待った。

「あんれぇ、このドア開いていたのね、早く言ってよねぇ、そんな事は。それじゃ、まぁ、失礼致します」そう言って入ってきたのは、カマキリだ。いや違う、カマキリそっくりに見える女性だ。その女性はすごい変装をしていて、帽子に飴色の縁取りのある 眼鏡を掛けていた。それよりは、その女性がしている化粧だ。

 厚く塗りたくった化粧で、それが原因でカマキリに見えるのかもしれない。それに、思ったより太っていない。細長い胴体だ。この細さもカマキリに見える原因のひとつだろう。俺が推測を誤ったのは、いつも歩く時に、足を地面に擦る様に歩くから、太った人独特の足音が聞こえたのだろう…文法を無視した家庭教師に続く。